ｂｙ ハッチョ
晩餐会
小島でスキューバダイビングを楽しんだ後ホテルに帰ると”Ｏ”さんが
「実はわし会社の連中に黙って参加しとるんよ。そやからあんまり日焼けするといかんのや」と一生懸命日焼け止めクリームを塗っている。でも常夏の南国フィリッピンの小島でスキューバダイビングでしょう。日焼けするなという方が無理。それに元々地黒。期待されるクリームが気の毒というもの。
ホテルのテラス兼食堂で夕食晩餐会。島での野趣あふれる食事と違って至れり尽くせり。香辛料に慣れていない身にとっては少々違和感はあるものの中々美味。
ビールは夕日と同じ、世界中どこで飲んでも美味しい。もちろんフィリッピンではビールといえば”サンミゲール”。初めて飲んだが確かに旨い！
食事が終わってくつろいでいると、ニーノが
「おい、ホテルの連中がアトラクションを見せてやる言うとるわ。皆並んで椅子に座ってくれるか」
ホテルの連中は手早く舞台スペースを作り椅子を並べる。舞台のある場所には祭壇のようなものを設けている。みな一体何が始まるのかと、イソイソ・ウキウキと椅子に座る。
この旅行の記録係である”Ｔ先輩”は、ビデオカメラを構え椅子の最前列で待ちかまえている。
やがてホテルの手のすいた連中も（手のすいてない者も）やって来て、周りに座ったり立ったり、気が付けば客の数よりはるかに多い。祭壇のようなものの前には椅子が二つ並んでいる。
ホテルの従業員と何やら相談していたニーノが突然、
「Ｔよ、カメラはちょっとＱちゃんに頼んで前の椅子に座ってみてくれるか？」「Ｑちゃんはテストでカメラまわしてみてや」
ニーノはどうやら舞台監督もするつもりらしい。それに大将を除けば最年長。皆素直にいうことを聞く。それに”Ｔ先輩”は役者にしたいほどの男前。そりゃあカメラ映りは誰よりもいい。
取りあえず先輩の指示に従い,”Ｔ先輩”は祭壇の前の椅子に座りこちらを向いて端正な顔立ちで微笑んでいる。Ｑちゃんはカメラテストにいそしむ。
次にニーノはホテルスタッフの女の子を呼んで”Ｔ先輩”の横に座らせた。中々美人でスタイルの良い女の子だが年の頃は１５・６才くらいらしい。
彼女は静々と前に進みトッチャンの隣に座る。元々男前で女性にもて慣れている”Ｔ先輩”。緊張しつつもまんざらではなさそうな顔をしてニヤついている。Ｑちゃんは「Ｔよ、お似合いやなあ」とかなんとか言いながらカメラテストを続ける。
さて何が始まるのか？まだニーノもホテルスタッフも教えてくれない。
一人の若い男が出てきて、白装束に何やら帽子らしきものを被り舞台の祭壇の前に立つ。
いよいよ始まるらしい。
椅子の二人に何やら話しかける。”Ｔ先輩”はお役御免になったものと元の席に戻ろうとする。
祭壇の男はさらに声を大きくして何やら２人に話しかけた。タガログ語なのだろう何を言ってるかさっぱり分からない。”Ｔ先輩”も当然わからない。当然ながら女の子は判る。
女の子は笑顔で、席に帰りかけた”Ｔ先輩”の手をとって祭壇の男の方を向いて立たせた。手は話さない。
やおら男はおごそかな声色かつ早口で、２人に向かって語りかける。よく見ると彼の手にはいつの間にやら分厚い本。
前に立つ二人に語りかける内容はよく判らないが、どうやら”Ｔ先輩”に「ＹＥＳかＮＯか」みたいなことを聞いているようだ。
ニーノが助け船を出す。「ＹＥＳ言うとけや」
何も判らず”Ｔ先輩”はニーノの言うまま「ＹＥＳ」
その瞬間、ホテルの従業員が歓声を上げ紙吹雪が舞い、ヤンヤの拍手で大騒ぎ。祭壇の男の手に握られた分厚い本は聖書ではないか。どうやら彼は神父の扮装をしているのだ。
だとするとこれは・・・結婚式？彼女は花嫁？
未だによく飲み込めずキョトンとしていた”Ｔ先輩”もやっと気がついた。我々も気がついた。よく考えると”Ｔ先輩”はグループ唯一の独身者だった。
異国の地でむちゃくちゃ若い花嫁を娶らされたことに気がついて、「いけんで」「いけんで」と連発するがもう遅い。
彼女の眼の前で「生涯を共にするか？」と問われ「ＹＥＳ」とはっきり言ったのを我々がはっきり聞いている。我々はこの結婚式の証人である。
ニーノの計画は大成功。
役者を勤めた従業員も中々のものだ。
仕掛けを知らなかった我々は結局皆笑い転げてしまった。なにはともあれ「サプライズが結婚式」だったとは”めでたしめでたし”。
それからは結婚式を終えたばかりの二人を中心に皆で飲めや歌えやの大騒ぎ。
彼女の名前は「ジェシカ」。
まんざらでもなさそうに新郎の横でニコニコ笑っている。
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